2009年 09月 28日
ストックホルムの陶芸
ストックホルムから公共の交通機関で2時間弱かけて行ったところに、
Vardinge Folkhogskola(ボーリンゲ・フォルクホグスクーラ)という学校がある。
この学校には、陶芸、家具、テキスタイル、絵画、彫刻、園芸のコースがあり、
陶芸コースでいえば、ストックホルムから一番近いフォルクホグスクーラにあたる。
毎年、コンストファック(スウェーデン国立美術大学)や
HDK(ヨーテボリ大学デザイン工芸学部)へ入学する生徒を輩出している。
陶芸家でもありこの学校の先生でもあるキュリスティンのおかげで、
私はこの学校の陶芸コースを見学することが出来た。
森に囲まれていて、近くには大きな湖をもつ、
とても自然豊かな場所にこの学校は立っている。
この学校に通う生徒は、ストックホルムから電車やバスを使って通うか、
もしくは学校の宿舎(学校のすぐそば)に住むことができる。
校舎は1970年代に建てられたもので、外見もさながら、
内装は、オシャレなお宅にお邪魔したかのようなスタイリシュで快適な空間だった。
陶芸棟も同様、入り口からオシャレ。
入って直ぐの、大きなソファを配した水色と白を基調とした空間は、
窓辺にたくさんのクラフト雑誌が並べてあり、壁には展覧会予告のDM、ポスターが貼ってある。
キュリスティンいわく、毎朝、制作を始める前に、
ここにみんなで集まってミーティングをするそうだ。
入り口から奥に進むと、広いスペースを持つスタジオ。
壁側にロクロが7台ほど置いてあり、そして長机と流し場。
生徒達はみんな、この広く仕切りの無いスペースを中心に制作をする。
キュリスティンのデスクもこの広い空間の片隅にある。
窓際の壁にこじんまりと据えられた机が彼女のデスクだ。
生徒のとの境界線はまったくない。
彼女の方針は、
「各自専用の場所をもつのでなく、生徒がこの広いアトリエの中動きまわり、
ごった返して制作するのが理想。先生は(たとえゲストティーチャーでも)
生徒と同じ空間で制作し、つねに生徒の目の届くところにいるべき。」とのこと。
だから、この陶芸棟内でのキュリスティンのプライベートな場所といえば、
通路に置いてある、小さな収納棚のみである。
(プライベートがほしいとき彼女はここに隠れるらしい、小さすぎて無理だけど:笑)
キュリスティンの方針と、
この学校の開放的でデザイン性の高いインテリアは
上手く調和していて、私は心地よさを感じた。
すぐそばには自然が広がっているし、
かといって、ストックホルムの刺激的な街に出るのにも、そんなに不便ではない。
スウェーデンを感じるにはちょうどいい具合の学校かも知れない。
この学校で私は、キュリスティンと10人ほどの生徒を前に、
パソコンを使って自分の作品を紹介した。もちろん英語で(笑)。
途中、「もうこれ以上英語を話すのは無理!」っと感じたので、
生徒達に質問を振ってみた。
「あなたはどんな文化に興味がありますか?」と。
生徒達の答えは、マオリ、ロシア、日本、バイキング、古代ギリシャなど。
北欧にとって貴重な夏のシーズンは、
ストックホルムの中心でも様々なイベントが開催される。
八月中旬には、文化(カルチャー)をテーマにしたフェスティバルが開かれていた。
そこで私は偶然、日本人が商うブースを見つけた。
そして幸運にも、そのうちの一人がコンストファックの院生で、
私をコンストファックに案内してくれることになった。
彼女は日本の美術大学を卒業して、しばらく大学の助手をした後、
このコンストファック(スウェーデン国立美術大学)のテキスタイルコースの
マスター(院のようなもの)に昨年入学した。
彼女は親切なうえに、しっかり者で、
今のスウェーデン事情を芸術から教育まで、幅広く話してくれた。
コンストファックは、日本でいう大学であるが、
バチラ(3年コース)で学位は修得でき、その上にマスター(2年)コースがある。
日本人の生徒も何人か入学している。
バチラを受けるならスウェーデン語は必須だが、
マスターのみなら、英語だけで大丈夫。
英語でいかに上手く自分の作品が紹介できるかが入試のポイントらしい。
彼女はテキスタイルを専攻しているので、
まずはテキスタイルの部屋から案内してもらった。
コンストファックはストックホルムの中心から地下鉄で20分ほどのところ
telephonplan 駅のすぐ近くにあり、
建物はelecsonの工場を改装したものだ。
壁はほとんどが白色で、ところどころポイントとして
スウェーデンらしいビビットな色を配してある。
とてもシンプルでスタイリッシュな建物だ。
入って直ぐに開放的な展示スペースがあり、
その時はちょうど、テキスタイルのワークショップが開催されていた。
各コースをつなぐ廊下は、廊下と思えないほど広く、
廊下で大物作品を制作する生徒も見られた。
陶芸はガラスと組み合わさって、一つのコースになっている。
このセラミック&グラスコースには、今、
日本人の女性がマスターとして昨年から通学している。
彼女も心優しく、私にセラミック&グラスコースを紹介してくれた。
彼女はガラスが専門だ。このコースは入学してから、
陶芸かガラスか(はたまた両方か)を自由に選べるらしい。
他にもコンストファックにはさまざまなコースがあるが、
たとえば自分の専門以外のコース(他コース)に興味がある場合、
その他コースの授業を一個でも受けていれば、
他コースのスタジオを使えるらしい。
コンストファックの中は
各コースのスタジオごとにカードキーでしっかりロックされているが、
生徒は各自コースのスタジオのキーを持っているので、
実質、生徒はスタジオを24時間いつでも利用できる。
あまり使ってはいないらしいが、
トイレにはシャワールームが3つあり、
各コースのスタジオ内には料理を作って食べられるキッチンがある。
テキスタイルのマスターにいる彼女は、私に
いかにスウェーデン人が家のインテリアにこだわるかを教えてくれた。
特に、テキスタイルは家のカーテンやテーブルクロスなど
いろいろなところで活躍し、しかも日本では考えられないほど頻繁に、
模様替えをされるそうだ。
彼女は布の絵柄をデザインするのが特に好きで、
最近では彼女のデザインした布が、あるデザイナーによって、
きらびやかなバックに変身した。
セラミック&グラスコースを紹介してくれた彼女は、
とても制作熱心な生徒だと思う。
彼女が私に見せてくれた作品達は、すごく繊細でセンシティヴなのだが、
なにか強いものを秘めている…そんな印象を受けた。
ここスウェーデン、ストックホルムでも、
こんなに頑張っている日本人に会えて、本当に嬉しかった。
その上、同じ作家として、彼女達の切磋琢磨して生まれた作品が
見れたことで、とても勇気付けられた。
世界のどこに行っても、頑張っている日本人が必ずいる。
by mixed-clay
| 2009-09-28 16:36
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